本記事はウェブメディア「Modern Times」へ2023~2024年に寄稿したものを同メディアの閉鎖に伴い加筆・修正のうえ再掲したものです。
定量的な評価が野心的な目標を阻害するという誤解
近年、ビジネスや組織の世界では定量的な目標管理が重要視されています。組織全体が一体となり戦略的方向性を確保しながら成果を最大化するためには明確な目標設定とそれに伴う定量的な測定が両方が必要だからです。
一方で、定量的な評価に対する誤解も少なくありません。「定量的な評価は野心的な目標の策定を妨げる」「数値で表現できる目標しか設定できない」「定性的な目標は定性的にしか評価できない」といったものです。これらは典型的な誤解で、実際には野心的で定性的な目標を掲げながら達成度を定量的な指標で評価することは十分に可能です。
このような組み合わせをうまく組み合わせたのがOKRと呼ばれるフレームワークです。本記事ではOKRとKPIの関係を説明しながら野心的な目標を定量的に評価する方法を解説します。
OKRの概要と特徴
まずはOKRについて簡単に解説しましょう。OKRとはObjectives and Key Resultsの略称で組織やチームが目標に対する成果管理を効果的におこなうためのフレームワークです。このフレームワークは組織の方向性を明確に示し目標に向かってチームが一体となって動くためのツールになります。
Objectives(目標)は組織やチームが達成したい具体的な目標や方向性を示します。これらの目標はビジョンや目的を示しチームメンバーに組織の方向性とその意義を明らかにします。基本的にはこのままだと達成が無理だろう、というくらいのストレッチした目標を設定します。
Key Results(成果指標)はその目標の達成を評価するマイルストーンです。Key Resultsは目標達成の進捗状況や成功度を測定するための指標であり基本的に数値によって表現されます。これらの成果指標は目標達成度を客観的に評価し、チームが目標に向かって前進するための進捗度を定量的に把握することができます。
OKRは組織やチームの目標を明確にし透明性とフォーカスを高めることでチームメンバーが共通の目標に向かって協力するための枠組みです。70%も達成できれば成功といえるようなストレッチゴールを設定することで、野心的な目標を掲げながら達成度を客観的かつ定量的なマイルストーンによって評価できます。このように野心的な目標と定量的な評価を組み合わせたものがOKRです。
お互いに補い合うOKRとKPI
次はOKRとKPIの関係についてかんがえてみましょう。少なくない人たちがOKRとKPIについて「OKRを導入するためにKPIは必要ない」とか逆に「KPIがあるならOKRはいらない」とか「OKRは難しいからKPIがあれば十分」だという人もいます。このような認識はあまり正しいとはいえません。OKRとKPIは組織と目標の管理についてお互いに別の存在でありながらお互いに補完しあう存在です。
OKRは野心的な目標の設定とそれに対するマイルストーンを示す枠組みです。Key Resultsはあくまでも目標に対する進捗を示す期間限定の目標値です。そのため、プロジェクト単位や四半期といった区切りごとに設定し直されます。この仕組みはチームの向き先を揃え評価軸をクリアにすることで集中力を高めます。
一方でKPIはサービスのパフォーマンスを評価する総合的な指標の集まりです。自分たちのサービスの現状を評価するために組織が継続的に監視すべきいわば健康診断です。目標へのマイルストーンというよりは現在がどのような状態なのか確認するために使うという向きが強いでしょう。
同じ数値を扱っていてもOKRのKey Resultsは前に進むための「狙い」であり、KPIは健全さを保つための「定点観測」という役割の違いがあります。この役割の違いがあるからこそ両者は相互補完的に機能するものなのです。
OKRとKPIを連携させる手順
では、OKRとKPIを使った仕組みを構築しようとしたとき両者は自然と統合するのでしょうか?そんなことはありません。お互いの特徴を考慮したうえで上手くすり合わせることが不可欠です。
OKRとKPIどちらから手をつけるべきでしょうか?まずはKPIからスタートしましょう。自分たちの組織やビジネスにおいて把握するべき重要な指標を見つける必要があるからです。どんな指標が自分たちにとって重要でありアクションを生み出すことができるのか知らなければOKRに利用することもできません。
KPIが整理されてきたら次は組織やチームで長期的な目標をOKRのフレームワークで検討します。目標は具体的で野心的なものであるべきであり組織全体が共有する方向性を示すものとしましょう。そして、この目標を達成を示すKey ResultsとしてKPIを中心に議論し選択します。
Key Resultsの選定には目標との関連性や測定可能性、具体性などを考慮しながら目標達成を示すための指標であることも重視されます。KPIを分解したり、その周辺の指標をピックアップすることもあります。
さらに組織やチームは定期的なレビューや進捗報告をとおしてOKRとKPIの連携を確認し調整をおこないます。OKRもKPIも一度作って終わりではなく継続的に改善をする必要があります。特にOKRは設定したもののKey Resultsがマッチしていなかったということはよくあります。レビューや報告の際に得られたフィードバックや洞察を活用し改善していきましょう。
このようにしてOKRとKPIを統合することでOKRによる定性的な目標と定量的なマイルストーン、そしてKPIという総合的な定量評価が協働するようになります。組織やチームは目標を達成するための組織の方向性と定量指標を通した効果的なマネジメントが可能になるのです。
ケーススタディをかんがえてみる
それでは、具体的にOKRとKPIをどのようにして連携させればよいのかWeb広告運用の組織を元に簡単な例をかんがえてみましょう。Web広告運用をするのであれば購買へ繋がったユーザーの流入経路であったりセグメントごとのインプレッション数、コンバージョン率、広告のコストなどの数値が重要な指標であることは明らかでしょう。つまり、これらの指標がWeb広告運用におけるKPIとなります。
この状態から新しいキャンペーンをおこなうとしたらどのようなOKRを立てるべきでしょうか?たとえばObjectiveとして「新しいキャンペーンを成功させる」とおいてみましょう。このときKey Resultsとして「キャンペーン広告のインプレッション数を他広告の150%に向上させる」「キャンペーン広告のCTRを他広告の120%に向上させる」「キャンペーン経由のROASを2.5以上にする」といったものがかんがえられます。これらはどれもKPIとして使っている指標に定量的な目標値を設定したものです。これはObjectiveのKey ResultsをみながらKPIも監視している状態になります。
ここで注意したいのは、同じ「インプレッション数」という指標でも、Key Resultsとして使うときとKPIとして使うときでは見方が変わるという点です。Key Resultsの「他広告の150%」はキャンペーン期間中に狙う野心的な目標値であり、ストレッチゴールとして設定するなら70%程度の達成でも成功とみなせます。つまり未達を前提に高く掲げる数値です。一方で、KPIとしてのインプレッション数は「ふだんの水準から大きく落ち込んでいないか」や「キャンペーンによってどれくらい変化したのか?」を継続的に監視するための指標であり達成・未達という発想では捉えません。同じ指標でもマイルストーンとして捉えるKey Resultsと健全性を定点観測するKPIと2つの側面があるわけです。
このようにして、キャンペーンの成功を目標にKey Resultsの進捗を追いかけることでOKRの進捗を定量的に把握することができました。同時に、インプレッション数やCTR、ROASなどの指標はふだんからKPIとして追いかけているものですからチーム全体の健全性も管理することができています。もしOKRだけ見ていると集中こそできますが目標以外の側面で組織を管理することができず、いつのまにかサービスは不健全な状態に陥っているかもしれません。逆にKPIだけでは野心的な目標とその進捗を管理することは難しいでしょう。両方を協働させるように設定することで野心的な目標へのフォーカスと組織の管理を上手くおこなうことができるのです。
OKRとKPIは組織やチームが目標を達成するために欠かせない要素です。両者は異なる側面を補完し合い組織やチームが目標に向かって効果的に進むための道しるべとなります。OKRとKPIを連携させることで共通の目標へ集中しながら同時に組織全体の健全性を保つことができます。そのためには両者が相互に補完しているということを理解し活用することが重要なのです。