本記事はウェブメディア「Modern Times」へ2023~2024年に寄稿したものを同メディアの閉鎖に伴い加筆・修正のうえ再掲したものです。

データ分析はますます企業や組織において不可欠な要素となってきました。しかし、データをビジネスで活用するためには単なる数値や統計の分析だけではなく特定の業界や領域に対する深い理解が必要です。本記事ではデータ分析者が身につけるべきドメイン知識とはなにものなのか探っていきます。

ドメイン知識の無い分析は間違った意思決定を招く

データ分析者のスキルの1つとしてドメイン知識が重要であることは多く言われていますが、そもそもなぜドメイン知識が必要になるのでしょうか?データ分析者が特定の業界や領域のドメイン知識を持つことが、データをただの数字の集まりでなく意味のある情報として扱うことができるようになるからです。

ビジネスにおいては、商品や市場の特性、法律、規制、商習慣、サプライチェーン、ビジネスモデル…etc とデータ分析を行うにあたって考慮すべき事項は多くあります。ドメインに関する理解という下地が不足した分析は正しい結論が得られないどころか誤った意思決定を加速させてしまいます。

なぜこのような状況が起きるのでしょうか?1つはドメイン知識の不足は課題を理解するうえで大きな障害となることにあります。分析の課題がどのような背景から発生し、どのような分析を行えば解決にたどり着けるのか把握するためにはその分野を理解している必要があります。

2つはデータは常にドメインの商習慣などの影響を受けているにも関わらずそれを理解せずに分析した場合は間違った解析結果を生んでしまう点にあります。たとえば、ある月の売上が突出していたとき、それを単なる外れ値とみなして除外してしまうと分析を誤ることがあります。実際にはその業界では決算期に需要が集中するという商習慣があり、その山こそが事業を理解するうえで最も重要なシグナルだった、というような事態は珍しくないでしょう。ドメインを知らなければ「意味のある偏り」を「ノイズ」として捨ててしまいかねません。

データ分析における課題の設計・データの処理・データの解釈というすべてのステップでドメイン知識は影響してくるということです。

3種類のドメイン知識

それではドメイン知識にはどのようなものがあるのでしょうか。たとえば法律や規制、ビジネスモデル、プロダクトの知識…などなど個別に挙げれば枚挙にいとまがありません。ここでは3つのジャンルにわけて整理します。

1つ目は業界の知識です。これは特定の企業によらず、その業界全体に共通する外部環境に関する知識を指します。法律や規制、商習慣のような知識がこれにあたります。医療や金融のように法律や規制が厳しい業界であれば非常に重要になります。そうでなくても商習慣のような知識は課題を理解するうえで有用です。特に意思決定者とスムーズなコミュニケーションをとるために背景となる業界の知識が求められます。

2つ目は業務の知識です。これは特定の職種や現場のオペレーションがどのように回っているか、どのような分析が求められるのかという点に関する知識を指します。業界をまたいで共通する点が多い点が1つ目の業界の知識との違いです。たとえばWeb広告の分析を行うならWeb広告運用の知識が必要です。営業なら営業、カスタマーサポートならカスタマーサポートの知識が求められます。具体的にデータを分析して現場のマネージャーとコミュニケーションして業務改善をしていくならば業務理解が重要です。

特に分析者の目線でいうならば、データドリブンが広まった現代では業務ごとによく行われている分析やKPIがありますので、そのような定番のやり方を知っておくと有用です。教科書的なテクニックは書籍や勉強会などで共有されているものも多くあり学ぶことが可能です。

3つ目は自分たちのサービスの知識です。これは自社の事業に固有の外からは見えない内部の知識を指します。自社のビジネスモデルやサプライチェーン、システムの設計などがあたります。このような知識は自分たちのサービスを改善するときに強く求められます。プロダクトマネジメントにデータを活用するならば必須となるでしょう。その会社の事業特有の知識となるため一般化しにくく社内での経験値が必要です。

実際にデータを分析するにはデータがどこからどのように作られているのか知る必要があります。そのためには自分たちのサービスの仕組みを知らなくてはいけません。これはデータベースの構成のような限られた話ではありません。誰がどのようにどのタイミングでデータを入力するのか、そのデータが自分たちの分析環境までどのような処理がされているのか把握するということ観点も必要です。

ビジネスにおいては、業界の知識、業務の知識、サービスの知識の3つのドメイン知識を必要に応じてバランスよく学ぶことが求められます。実際の分析を考えると、どれか1つだけあればよいというものではありません。たとえば、データの偏りはシステム・業務・業界どの要因でも発生しうるものです。妥当なデータ分析を行うためには幅広く必要な知識を身に着けておく必要があります。もちろん、それらをすべてを完全に理解することは不可能ですが、必要に応じて理解を深めていくことが求められます。

どのようにして学んでいけばよいのか?

ドメイン知識について大きく3つに分類して整理しましたが、それでは実際にドメイン知識を学ぶためにはどのようにすればよいのでしょうか?最も基本的な学び方は専門家に相談することです。専門家というのは同じドメインの分析者に限りません。その分野で仕事をしているさまざまな方から学ぶことがたくさんあります。

業界の知識が必要であれば分野のスペシャリストに相談すれば良いでしょう。どのような場面でも分析対象のスペシャリストがいるはずですので、知っておくべき基本的な知識やそれを学ぶための方法を尋ねてみましょう。業界でよく読まれている書籍などを教えてくれるはずです。業務であれば部門のマネージャに相談すればチームの研修資料があるかもしれません。システムの知識であれば現場の開発者が参照しているwikiなどのナレッジが参考になるでしょう。

効率的に学ぶにはすべてを学ぼうとしないことが重要です。まずは目の前の分析の意思決定に直結する知識から優先的に押さえ関係の薄い領域は後回しにする。限られた時間のなかでは優先順位づけそのものがスキルになります。質問をするときは分析と紐づけると学びが多いです。「この業界について教えてください」ではなく「このデータでこの月だけ値が跳ねているのは何か理由がありますか」と手元のデータに紐づけて聞くことで専門家から引き出せる情報の質が大きく変わります。そして、なによりも学んだことをドキュメントやデータ定義として残し次の分析や他のメンバーが再利用できる資産にしていきましょう。

独学で抱え込むのではなく専門家を起点に学んでいくことがドメイン知識を得るうえでもっとも近道です。データ分析者は各分野のスペシャリストであることは多くありません。全く知見がないという状況もあるでしょう。そのようなときに無理に独学で知識を得ようとするのではなく素直に専門家を頼るべきです。

「わからないことは専門家に相談する」というとなんだか単純で当たり前のことをいっているように見えるかもしれません。ですが、分析の対象がコロコロと変わることの多いデータ分析者という仕事をうまく回すには、その当たり前をうまくやるというキャッチアップの技術も必要です。

冒頭で述べたとおり、ドメイン知識は課題の設計・データの処理・解釈というすべての段階に影響します。だからこそ、その知識をいかに速く・的確に身につけるかというキャッチアップの技術は分析スキルそのものと同じくらい高い価値のアウトプットを出すために重要なのです。