本記事はウェブメディア「Modern Times」へ2023~2024年に寄稿したものを同メディアの閉鎖に伴い加筆・修正のうえ再掲したものです。

組織構造がデータの活用を促進する

データ駆動型の経営を実現するためにデータ分析チームを新設する組織が増えてきました。データアナリストやデータサイエンティスト、データ基盤エンジニアなどデータ分析に係る人材を採用し新たなチームとして立ち上げたという話は枚挙にいとまがありません。

一方で、データ分析チームを組織においてどのような配置にするべきかという点はあまり話題になりません。どこの企業も独立したデータ分析チームとして配置されているケースがほとんどでしょう。果たして、それは適切な組織構造に対するアサインなのでしょうか?

配置を誤るとせっかく採用した人材が事業部とうまく噛み合わず分析が意思決定に使われないまま埋もれてしまいます。データドリブンな意思決定を行い事業の変化に迅速に対応できるようになるためには事業部とデータ分析人材の連携が必要です。同時に、データ分析基盤やBIツールなど様々なシステムを導入し運用していく必要もあります。そのためにデータ分析人材が動きやすく能力を発揮しやすいようにアサインされていなければなりません。適切な配置が組織全体のデータ活用を促し、競争上の優位性を確保できるようになるのです。

それではデータ分析人材の配置はどのように考えるとよいでしょうか?会社のビジネスモデルや組織構造によって考えるべきポイントはたくさんあります。まずはシンプルに中央集権型組織と分散型組織、そしてその2つを組み合わせたハイブリッド型について考えてみましょう。

リソース配分しやすい中央集権型組織

わたしが知る限りほとんどの企業で、この中央集権型の組織構造をとっています。中央集権型組織ではデータ分析者というジョブに対してデータ分析チームという1つの組織を割り当てられ、複数の事業部や組織を横断して分析業務にあたります。原則として分析者を含めてデータ分析基盤エンジニアなど分析に関わる人材をこの分析チームに集めます。

中央集権型組織のメリットは分析人材を一元管理できるため組織で一貫した方針や計画に向けて効率よくリソースを配分できることです。組織とビジネスは常に変化するものですので、重点的にリソースを割きたい対象も変わっていきます。そのようなときに柔軟に向き先を変えながら手厚く人材をアサインすることができます。

このメリットはデータ活用を始めた段階で特に恩恵があります。初期フェーズでは人材の数が少なく分析に必要な環境も乏しいでしょう。そのような状態で人材を分散させてしまうと一向にデータ活用の実績をあげることができず導入に失敗するような事態になりかねません。最初は実績をあげるために1つの目標に対してチームが一丸となって取り組むほうがよいでしょう。

一方で、中央集権型のデメリットは事業部とのコミュニケーションコストが高いため迅速で柔軟な意思決定が難しいことにあります。構造上、事業部と分析チームが異なる組織であるため社内受託のような状態になりがちです。そうなると素早い意思決定や複雑な課題の解決は難しくなるでしょう。また、依頼する側・受ける側というあたかも上下関係のようなものが生まれてしまい組織の関係性に問題が起きやすくなります。これは分析者のモチベーション低下にもつながります。

コミュニケーションしやすい分散型組織

中央集権型組織の特徴について掴んだところで、次は対角にある分散型組織の場合を考えてみましょう。分散型組織ではデータ分析人材を事業部ごとに配置します。それぞれの事業部と共同でデータ分析業務を進めていきます。

分散型組織のメリットは事業部とデータ分析人材が同じ組織にいるため密な情報連携が可能になり素早く柔軟な意思決定が可能になります。距離が近くなればコミュニケーションを増やすことも容易ですから分析を利用した改善活動がしやすくなるでしょう。事業の細かい方針転換にも素早く対応することが可能です。

また、現場と分析者の距離が近くなることで分析人材が業務について深く理解できるようになり、実際的な分析結果を提供しやすくなります。データ分析業務ではドメイン知識の理解が非常に重要ですが、コミュニケーションコストが高いとドメイン知識の理解も簡単ではなくなってしまいます。事業部と分析者が密接に連携できる環境であればそれも容易になり、より本質的な分析を行うことができるようになります。

では分散型組織のデメリットはなんでしょうか?それは組織をまたいだプロジェクトを実行しにくいため全体最適化が難しくなることです。事業部内部で閉じるような問題であれば高速に実行できますが組織をまたいだ問題解決には時間がかかります。また、分析人材同士の交流が減るため分析に関する知見を深めにくくなります。

ハイブリッド型組織で現実的な解決を目指す

中央集権型と分散型組織の2つの特徴を踏まえたうえで、どのような組織を作っていくべきなのでしょうか?実際のところ、組織をこの2つのどちらかというよりも2つを組み合わせたようなハイブリッド構造を長期的に目指すのが望ましいでしょう。

分析組織の立ち上がりはほとんどのケースで中央集権型からはじまります。そのため実際のところ分析組織は中央集権型から徐々に分散型の要素を取り入れてハイブリッド型へと変遷を辿っていくことになります。中央集権型で事業部の依頼された分析に対応するという形から一部の事業部にメンバーをアサインして密に連携をとれるようなケースを増やしていくのは私もよく提案する進め方です。

データ活用を進めて事業部と分析チームでデータ活用の方向性がよりはっきりした事業部から人材のアサインを進めることでデータ活用のモデルケースとしての活躍が期待できます。うまくいきそうな場所に投資を強めるという極めて当たり前の話ではありますが、データ活用のように新しい概念を持ち込むときはうまくいくケースがあるということはその後の展開に重要です。

人は分散させても基盤は集約する

ここまで人材の配置を考えてきましたがデータ分析基盤については別の見方が必要です。人材は事業部へ分散させてもデータ分析基盤はデータ分析チームで一貫した指針のもと開発していくことが望ましいことが多いでしょう。企業全体で一元化された分析基盤はとても重要です。それを維持するには事業部への分散を強めるよりも分析チームとして1つの方針に統一したほうが進めやすいものになります。

もちろん現場とのコミュニケーションが問題になりかねませんが分析者が現場へ分散して貢献していればその問題の多くは解決されるでしょう。また、そのような問題をより強力に解決する手段としてデータ分析基盤エンジニアとデータ分析者の中間にデータスチュワードのようなロールが入ると円滑に進められるでしょう。

組織構造がデータ活用を決める

データ活用を進めるに当たって組織構造は重要なポイントです。コンウェイの法則にあるように組織とシステムは密接な関係があります。組織を超えたやりとりが多いため組織構造が適切なものになっていなければ機能不全に陥ります。これは分析者や事業部の担当者など個人だけではどうしようもない問題です。もし社内でデータの活用が進まないのであれば、組織構造による連携の問題が発生していないか検証してみるのはいかがでしょう?