データ分析と戦略と優先度
前々回の記事では経営に近い抽象的な指標をそのまま現場に渡しても「何を変えればいいのか」がわからないという問題を取り上げました。解決策として指標をファネルや要素やセグメントに分解し課題の所在を具体的に特定することの重要性を述べています。
前回の記事ではその続きとして、分解して見つかった課題に片っ端から対応すればよいわけではないという話をしています。見つかった課題のなかからどこに集中するかを決めること、つまり戦略を立てることが不可欠であり、KPIとはその戦略を定量化した指標だという整理です。
この2つの記事を踏まえると「分解して課題を見つけ、戦略的に優先度を決める」という流れが見えてきます。では実際にどうやって優先度を判断すればいいのか。本記事ではその判断軸として「大通り」という考え方を紹介していきます。
課題を見つけたら次に考えること
指標を分解して分析を進めると課題は次々と出てきます。特定のセグメントでファネルの通過率が低い。ある流入経路だけ転換率が落ちている。こうした発見は分析の成果であり現場への具体的なインプットになり得るものです。
しかしそこで一度立ち止まってほしいことがあります。「その課題を改善したとして、どれくらいのインパクトがあるのか」という問いです。
たとえば特定のセグメントのファネル通過率が低いとして、そのセグメントが全体売上に占める割合が1%だったとしましょう。仮にその通過率を2倍に改善できたとしても事業全体への影響は微小です。課題を見つけることと、その課題に取り組む優先度を判断することは別の話です。
分析で見つかった課題はあくまでも「改善の候補」にすぎません。そのなかからどこに時間とリソースを投じるかを判断するためには自分たちのビジネスのどこが「大通り」なのかを把握しておく必要があります。
大通りとは何か
大通りとはユーザーがたくさん通りお金が動いているところ、言い換えれば自分たちのビジネスのコアです。
都市の地図に置き換えると分かりやすいかもしれません。賑わっている大通りに面した店と人通りの少ない小道に面した店では、同じ改装工事でも集客への影響がまったく違います。大通りに面した店の入り口を広げれば多くの人が入りやすくなりますが、小道に面した店をどれだけ改装しても通行人が少なければ効果は限られます。
ビジネスも同じです。大通りを改善すればインパクトが大きく小道を改善してもインパクトは小さい。だからまず自分たちのビジネスの大通りがどこなのかを定量的に把握することが先決になります。
大通りの2つの考え方
大通りを把握するには2つの視点があります。
ひとつ目は「どの商品が誰に売れているのか」という視点です。売上の大部分を占める商品は何か、それをよく買うのはどんなユーザー層なのか。これを把握することで自分たちのビジネスの主軸が見えてきます。全商品・全顧客を均等に扱うのではなく売上構造を正直に見ることがスタートになります。
たとえばECサイトで家具・雑貨・インテリア用品を扱っているとしましょう。取扱商品数は雑貨が圧倒的に多いですが売上の大部分はソファやベッドといった大型家具が占めているというケースはよくあります。このとき大通りは大型家具です。商品ページの改善や購買体験の見直しをするなら大型家具を起点に考えることがインパクトの大きい投資になります。
ふたつ目は「商品がどのように購入されているのか」という視点です。同じ商品でも購買に至るまでの経路や行動パターンはユーザーによって異なります。よく使われている経路や購買パターンがある。その「よく通られているルート」こそが大通りであり、そこを改善することがサイト全体の購買体験の底上げにつながります。
先ほどのECサイトで続けると、ログを分析した結果、大型家具を購入したユーザーの多くがトップページから特集ページを経由して商品ページに到達していたとします。一方で検索機能を使って直接商品ページに来たユーザーの購買率は低い。この場合トップページから特集ページへの導線が大通りです。特集ページのコンテンツを充実させる・季節や用途に合わせた特集を増やすといった施策は多くの購買ユーザーの行動に直接影響しますが、検索機能の改善は通過するユーザーが少ない分インパクトの上限が小さくなります。
この2つの視点は排他的ではありません。「大型家具を買うユーザーがよく通る経路」のように掛け合わせることで大通りはより具体的に把握できます。
通りの大きさがわかれば施策のインパクトが読める
大通りがどこかわかればその通りの規模を使って施策のインパクトをシミュレーションできます。
たとえばあるセグメントの転換率を5ポイント改善したとして、そのセグメントの流入数と現在の単価から売上への影響を試算できます。大通りであれば多少コストや工数がかかる施策でも投資対効果が見合いやすく腰を据えて取り組む理由になります。逆に小道であれば「インパクトが小さいのでシンプルな施策に絞る」という制約が自然と生まれ、施策の設計も研ぎ澄まされます。
施策のインパクトを事前に試算する習慣は分析チームと事業側の対話を変えます。「この課題を改善しましょう」ではなく「この改善によってこれくらいのインパクトが見込めます」という会話ができるようになれば優先度の議論はより具体的になります。
大通りは組織で合意する
大通りを定量的に把握することは分析チームの仕事ですが、それだけでは不十分です。
分析チームが「ここが大通りだ」と示しても各チームはそれぞれ自分の担当領域を大通りだと思って動きがちです。営業は自分が担当している顧客層を、マーケティングは自分が担当しているチャネルを大通りだと信じている。この状態のまま施策を走らせると前記事で述べたのと同じ問題が繰り返されます。各チームが自分の指標を追っているのに組織として同じ方向に向いていない状態です。
大通りの定義は分析チームが示して終わりではなく経営や事業責任者、現場を巻き込んで「ここが自分たちのコアだ」と合意するプロセスが必要になります。合意された大通りは組織の共通言語になります。施策のアイデアが出たときに「それは大通りへの投資か」という問いが自然に生まれるようになれば優先度の判断が組織全体でできるようになります。
まとめ
分析で課題が見つかることは出発点にすぎません。その課題がビジネスのどこにあるのかを大通りという視点から評価することが次のステップです。
大通りとはユーザーがたくさん通りお金が動いているところ。「どの商品が誰に売れているか」と「商品がどのように購入されているか」という2つの視点で把握します。そして把握するだけでなく組織として合意することが大通りを判断の共通言語にするために欠かせません。
大通りがわかれば施策のインパクトを読めます。インパクトが読めれば優先度が決められます。優先度が決まれば組織のリソースをコアに集中させることができます。分析から行動への道筋はこの順番で整っていきます。