7.1 データ活用とセルフサービス環境
ここまでにデータを収集し保存、加工する技術とデータの品質について紹介してきました。しかし単にデータを保存しただけでは価値を生み出せません。分析する人が簡単にデータにアクセスし自分で分析できる環境が必要です。
データの活用が広まれば広まるほどデータの専門家以外でも自力でデータを分析できる環境が求められます。専門家だけであれば自分でデータベースやコードを読み解きPythonやSQLを書いて処理を行うことができますが非専門家の場合はそうもいきません。
専門的な知識を持たないビジネス担当者でも必要な時に必要な分析を自分で実行できる環境の構築を目指します。
BIツールによる分析環境の向上
BIツール(Business Intelligence Tool)はセルフサービスで分析できるようにするための環境作りに重要なシステムです。グラフィカルなインターフェースにより一定範囲の分析作業を効率化できます。
BIツールのメリットはGUIベースで専門的な知識がなくてもとっつきやすいことです。画面上で分析したいデータをGUI上で選択し基本的な集計やグラフ作成を実行できます。たとえば売上データから「商品カテゴリ」を行に「販売月」を列に「売上金額」を値とすることで売上推移のクロス集計表が生成されます。
また、多くのデータを分析するため必要な情報を集約することで分析の効率が上げやすくなります。ダッシュボードを通じて分析結果や分析の処理を共有できたり、データカタログを通して必要なデータを素早く検索・利用できたりするため、分析に必要な情報が集約されることで分析・アクションが実行しやすくなります。また、データ分析基盤へのインターフェイスが統一されることで権限管理もしやすくなります。
しかし複雑な分析や柔軟な条件設定が必要な場合はGUIだけでは限界があります。条件での絞り込みや複数テーブルの複雑な結合、計算式を用いた指標などは複雑になればなるほどGUIベースのBIツールだけでは実装が難しく、SQLによる直接的なデータ操作が必要になります。そのため、実際はBIツールと併せてデータ分析基盤へSQLを実行できる環境も提供し、利用者のスキルレベルに応じた分析手段を用意することが一般的です。
データカタログによる情報発見
大規模なデータ分析基盤では数百から数千のテーブルやレポートが存在します。分析する人が必要なデータを発見するためのデータカタログ機能が重要になります。
データカタログはメタデータ管理の成果を活用します。第6章で説明したようにメタデータはデータ分析を効率化させる重要な要素です。各データの定義・更新頻度・データリネージュ・利用状況といった情報が整理することで「売上」「顧客」「在庫」といったキーワード検索により関連するテーブルやレポートを素早く発見できます。
必要なデータを自分たちで素早く探せる環境は分析する人が増えれば増えるほど有用になります。なにかのデータを探すたびに問い合わせていたら分析が進みませんしデータ分析基盤チームも問い合わせ対応ばかりで手いっぱいになってしまいます。これはデータ活用を広める段階においてボトルネックになりがちで忘れてはいけない観点です。
さらに重要なのは見つけたデータが自分の求めているものかどうかを確認できることです。データの詳細な定義・計算方法・サンプル値が表示されるため「このテーブルの売上は税込みなのか税抜きなのか」「このテーブルの在庫データはいつ更新された値なのか」といった疑問を事前に解決できます。またデータの品質状況や信頼性レベルも併せて確認できるため分析に適したデータソースかどうか判断できるようになり分析の効率化と精度を向上します。
協調的な分析環境
作成したレポートやダッシュボード、その処理方法を組織内で共有することで分析の効率性と正確性を大幅に向上し意思決定の質と速度を改善することができます。
過去に他のメンバーが作成した分析手法を参考にすることでゼロから分析処理の実装を考える必要がなくなり効率的に作業を進められます。類似のビジネス課題に対する分析アプローチが蓄積されることで組織全体の分析スキルが向上され、また優秀な分析者が作成したテンプレートやベストプラクティスを活用することで分析経験の浅いメンバーでも高品質な分析を実行できるようになります。
共有という観点でBIツールは非常に便利です。ほとんどのBIツールにはレポートやダッシュボードの共有機能がついており、これを使うことで組織内で共有することができます。特にWebサービスとして提供されているBIツールはURLだけで簡単に共有できるので手間がかかりません。
同じダッシュボードやレポートを共有することで全員が同じ数値を参照しながら議論でき認識のズレを根本的に回避できます。この結果として現状把握から行動までのスピードと精度が飛躍的に向上します。共有されたダッシュボードを通して即座に状況を把握し緊急性の判断や初動対応を開始できますし、素早く複数の視点から検討が可能になります。組織全体でデータに基づいた迅速な意思決定が日常的に行われる環境を構築するにあたって分析を共有できる環境が重要なのです。